月下史上初の一人旅レポート、みたいなもの。





『どうせ無理』 『そんなこと出来ない』 『いつかはやってみたいけど』 ・・・・


・・・・そんなふうに思って、簡単にあきらめていることって、結構たくさんある。でも、そんなふうにして手放してしまうことの中にも、実はその気になれば、どうにかなるものだって、たくさんあるのだ・・・・というお話。


大好きなラルクのコンサート・チケットを取った。品薄のチケットを、やっとのことで手に入れたのだ。しかし、会場が遠い。それじゃぁ、現地で1泊しておいで・・・・と言ってくれたつれあいの厚意に甘えて、月下史上初の一人旅となったのである(・・・・とは言っても、たった1泊だけどね・・・・)。


さて。
そうと決まれば準備開始である。


まずは交通手段を調べる。
いつも車で移動する月下だが、せっかくの一人旅、旅行気分を満喫するために・・・・そして、経費節減のために(笑)、高速バスと電車を使うことにする。


ちなみに月下は、電車なんか年に2、3度しか乗らない。どの電車に乗ったら何処に着くのかがわからないのは当たり前。それどころか、切符を買うのも、改札を抜けるのも、いちいちドキドキする。困ったもんだ。


高速バスで東京駅まで行き、そこから中央線で新宿まで。新宿駅の新南口というところに、バスターミナルがあるらしい。そこから再び高速バスに乗って、3時間ほどで目的地に着く(はずである)。少々時間はかかるが、いかにも旅行中って感じがするのがいい。それに、ライブは夜だから、焦ることはない。
移動中に読むつもりで、新書を2冊、バッグに突っ込む。


次はホテルだ。
高速バスの発着所からも、そしてコンサート会場からも歩いて移動できる場所にあるホテルを探す。出来れば、適当な金額で泊まれる、小奇麗なホテルがいい。


それから、学校から帰った息子をお稽古事に連れて行く段取りについて、つれあいと話し合う。月下が不在なので、息子は自宅ではなく、つれあいの仕事場へ帰るようにする。そこからタクシーで英会話教室まで行き、帰りはつれあいが迎えにいく。夕食はその帰りに2人で済ませる。


・・・・完璧だ。


あとは、とにかく息子に「家じゃなくて、パパの診療所に帰るんだよ。わかった?」と、しつこくしつこく言って聞かせる(笑)。家の玄関で、「あ、やべぇ。ママ留守だったんだっけ・・・・」というドジをやりかねない人なのだ、うちの息子は。


さらに、出発の数日前から、にわかに忙しくなる。気になっていたアレもコレも、この際だから片付けてから行こう・・・・と、いつになくヤル気まんまんモードで、あちこち走り回る。・・・・なんだか、1人で年末みたいだ。


そして、いよいよ出発当日。
早起きして、支度を済ませ、家を出る・・・・


この、『家を出る』 までが大変なのだ。
主婦の一人旅なんて、家族の協力や、理解を得る事が出来なければ、実現しない。そのうえ、2日間、留守にしても大丈夫なように、出発前にやっておかなくてはならないことも多々ある。そういった一切合財を解決して、ようやく出発なのだ。
まだ旅は始まったばかりだが、東京行きの高速バスに乗り込んだ時点で、とりあえずは無事に出発できたことに安堵する。


さて。
道中は音楽を聴いたり本を読んだりして快適に過ごし、予定通り昼過ぎに目的地に到着する。駅前のターミナルで高速バスを降りると、そこは知らない街だ。物珍しさにきょろきょろしながら、のんびりと歩き出す。


『本当にこんなところまで来るなんて、思わなかったよなぁ〜・・・・』


ホテルに向かう途中、遅い昼食をとるために入ったレストランで、窓の外をぼんやりと眺めながら、そんなことを思った。


月下は、ただライブに行きたかっただけだ。別に、”遠いところへ行こう!” と思ったわけでも、ましてや ”一人旅をしよう!” と思ったわけでもないし、そんなことが出来るとさえ思わなかった。なにしろ、月下は主婦だ。子供もいる。仕事だってある。
ライブだぁっっ!!お泊りだぁっっ!!一人旅だぁっっ!!・・・・って、そんな簡単に出歩ける身分ではない。


・・・・が、気付けばこんな遠い街まで来てしまった。


結局のところ、『どれだけ具体的に動けるか?』 なんだと思う。
ただ漫然と、”無理だろうなぁ” ”ダメだろうなぁ” ・・・・ではなく、それを実現させるために、どうしたらいいのか?何が必要なのか?時には、誰に頭を下げるべきなのか?そんなことを、ひとつひとつクリアしていくことで、”無理だろー” なことも、これが結構どうにかなるものなのだ。
そして、具体的に考えてみても、具体的に動いてみても、それでもダメだったら、その時は本当にダメなのだ。放り出すのは、それからだって遅くはない。


それから、もうひとつ。
こんな時にこそ、味方になってくれる人、後押しをしてくれる人というのは、かけがえのない存在だ、ということ。今回、『今年はラルクのツアーがあるんだぁ♪・・・・って、楽しみにしてたんじゃない?行かなかったら、きっと、すぅ〜っごい後悔するよぉ・・・・』 という、半ば脅迫めいた(笑)言葉で月下の背中を押してくれたつれあいの株価は、只今急上昇中である。なんなら一部上場の勢いだ。


つれあいがそうしてくれたように、月下もつれあいの、一番の味方でいてあげようと思う。端から見たらどうでもよさそうな、馬鹿馬鹿しいようなことを、それでもやってみたいと思う時こそ、味方でいてあげようと思う。


・・・・そんなふうに、思う。


白い食器が下げられ、2杯目のコーヒーが運ばれてくる。
見知らぬ街の歩道には、午後の陽射しが降り注いでいる。眩しいのでサングラスをかけて、読みかけの本を開く。一人で過ごす何もしない時間とは、こんなにも贅沢なものだったかと、改めて思う。


その夜のライブは、そりゃぁもう文句なしに楽しんだが、ライブだけでなく、日々の雑事から開放されて過ごした2日間は、なんだかちょっとしたプレゼントみたいだった。それは、単に ”羽を伸ばせたから” というだけでなく、一人になっていろんなことを考えたり、その中で初めて気付くことがあったりしたわけで、たった2日間だったけれど、貴重な2日間だったと思う。


こういうのも、たまには悪くないもんですよ。はい。