何を隠そう、私は歯医者さんが大大大っ嫌いだった。
月下は、小さい頃から歯医者さんが大大大っ嫌いだった。
歯医者にかかると、いつも死ぬほど絶叫し、大暴れした。そして、そんな馬鹿娘を押さえつけるために、父親が会社を休んで、母親と二人で、引きずるようにして月下を歯医者に連れて行った。
しまいには、診察台に縛り付けられて診察を受けた。こうなると、半狂乱である。もはや、治療が痛いか痛くないかの問題ではない。恐怖との闘いだ。何をされるか分からない、という恐怖。体の自由を奪われる、という恐怖。得体の知れない医療機器。神経を逆なでするような、あのイヤ〜な音。
・・・・ずたぼろの記憶である。頑張れ月下。
しかし今、うちの診療所で、診察室から子供の絶叫が聞こえてくることは、滅多にない。もちろん、泣きべそになる子供も、絶叫する子供も、いないわけではない。しかしそんな時、つれあいは無理に治療を進めることはせず、辛抱強く、子供を歯医者さんに慣らしていくことから始める。
まず、この白衣を着たおじさんに慣れること。ナース服のお姉さんたちに慣れること。歯牙を切削する機械で、爪を削って見せて、「こうやって、虫歯さんを削り落とすんだよ」 と言って見せてあげたり、「じゃぁ、今日は先生にお口の中を見せてね」 と言って口をあけさせたり、そんなふうにして、泣かせることなく徐々に治療に向かわせる。
ものすごく時間がかかりそうな気がするが、実はそうでもない。一度 『歯医者さんって、怖くない』 と思わせてしまえば、あとの治療は一気に進む。こうなれば、削り放題、抜き放題、詰め放題なのだ(なんじゃそりゃ??)。就学前の小さな子供でも、一人で診察室に入ってこられるようになる。
「こういう経験を積むことで、その子は一生、歯医者さんに行くのを嫌がらない人になるんだよ。それは、健康な歯を守り続けるために、とても大切なことなんだ。」
とは、つれあいの言葉。なるほどね。
子供を泣かせずに治療できる歯医者さんはきっと、子供にたくさん話しかけている歯医者さんだ。子供にたくさん話しかけている歯医者さんは、大人にだってきちんと話してくれるはずだ。口腔内の状態、治療の方法、治療にかかる費用や期間。
最近よく聞く、インフォームドコンセントというやつだ。納得づくの医療。きちんと納得してから、治療を受けましょう、ということ。
つまり、子供を泣かせない歯医者さんは、大人にとっても良い歯医者さんなのだと思う。どんなもんでしょう??
ちなみに・・・・月下、やっぱり今でも歯医者は嫌いだ(爆)。これはもう、トラウマです。それが、なんの因果で歯医者と結婚したのやら・・・・我ながら不思議。
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