嗚呼、眉毛犬。





ある朝。台所で朝食の支度をしていると、姑ちゃんがやってきた。
「おはようさん。 ( ̄ー ̄)ノ” 」 「おはようさん。 ( ̄ー ̄)ノ” 」


・・・・んっ?なんか、いつもと違うぞ。何がって?いや、その・・・・姑ちゃんの顔が。
起きたばかりで、まだお化粧なんてしていないのに、眉毛がいやにくっきりしている。ほんの申し訳程度にしか生えていない筈なのに、妙に黒々としてる姑ちゃんの眉毛。
・・・・可笑しい。言っちゃ悪いが、なかなか面白い顔だ。


「ねぇ、眉毛さぁ・・・・」
「ん?」
「もしかして・・・・刺青入れたでしょ?」
「Σ(|||▽||| ) え・・・・」


老眼になると、近くのものがよく見えなくなる。そうなると、手鏡を見ながら眉毛を描くのは難儀らしい。かといって、眼鏡をかけたら、眉毛は描けない。
だから、眉毛を描かなくてもいいように、眉毛を刺青にしてしまうという荒技が、この世の中には存在するのだ。なるほど。道理には適っている。あとは勇気と思い切りの問題だ。


そして今、不必要に充分な勇気を持ち合わせ、やたら思い切りの良い御夫人が、私の目の前に立っている。そういうことである。




さて、件の刺青であるが、お化粧さえしてしまえば、見た感じは・・・・特に違和感もない。フツーだ。


しかし問題は、スッピンの時である。
他の症例(とは言わないんだろうな、たぶん・・・)についてはわからないが、うちの姑ちゃんに限って言えば、これが相当オモシロイ顔なのだ。お見せできないのが残念だが、油性マジックで眉毛を描かれた犬みたいだ。眉毛犬。眉毛犬・・・・。

・・・・一度そう思ったら、もう眉毛犬にしか見えなくなってしまった。


ということは、(縁起でもない話だが) 姑ちゃんの死化粧は、ばっちりフルメイクにしなくてはならない。遠慮して薄化粧になどしたら、棺桶を覗いた人は、中に横たわる眉毛犬を見て、きっと吹き出すに違いない。
・・・・なんてことまで心配している、優しく、思いやりのある月下なのである。




さてさて、数日後。
親子3人で、近所の温泉へ行った。『酩酊状態の方、刺青のある方は、入浴を御遠慮下さい。』 と書いた看板が出ていた。それを見たつれあいが、ぽつりと一言。

「・・・・うちのばあさん、入れないじゃん。」

( ̄▽ ̄ i) タラー ・・・・いやぁ〜〜、どうなんだろ。そのへんのところ。