1.PTAのおいたち
 PTA(Parent-Teacher Association)はアメリカで生まれたもので、その創始者はバーニー(A.M.Birney)夫人だと言われています。19世紀の後半になると、アメリカでは工業化や都市化が急速に進み、豊かな繁栄の時代を迎えます。しかし、物質的な豊かさとはうらはらに、子どもたちをとりまく環境は、決して望ましいものではありませんでした。バーニー夫人は子どもたちが健やかに成長していくためにはまず何よりも環境を整備しなければならないと考え、「母親の会」をつくり運動を進めていきました。
 1897(明治30)年2月17日、バーニー夫人は、ハースト(P.A.Hearst)夫人とともに全米母親大会をワシントンで開催し、子どもの健全育成と教育環境の浄化を訴え、多くの提案をしました。そして、全国的な組織として、「全国母親協議会」(National Congress of Mothers)を発足させたのです。
 その後、協議会では組織の拡充を図り、父親や教師にも参加を求め、1924(大正13)年には「全国父母教師協議会」(National Congress of Parents and Teachers)が結成されます。これが今日のPTAの母体といえます。
日本のPTA
 わが国では、第2次世界大戦後にPTAが生まれました。戦前には、学校の後援会的な性格の強い父母会や保護者会がありましたが、戦後になってアメリカの「父母と教師の会」をモデルとして、PTAがつくられたのです。
 昭和21(1946)年3月に、日本の教育の民主的改革のために来日していたアメリカ教育使節団が、報告書を提出しました。その中で、民主化の一つとしてアメリカのPTAを紹介し、日本でも結成することを勧奨したのです。それを受けて文部省は、昭和22(1947)年3月に、「父母と先生の会−教育民主化のために−」という冊子を作成し、各都道府県知事あてに配布してPTAづくりを奨励しました。その結果、昭和25(1950)年までには、全国のほとんどの小中高校にPTAが結成されました。昭和27(1952)年10月には「日本父母と先生の会全国協議会」(現在の日本PTA全国協議会)、11月には「全国高等学校PTA協議会」が相次いで発足しました。

2.PTAの目的と性格
PTAの目的
 わが国にPTAが発足してから20年後の昭和42(1967)年6月、PTAはまだ後援会的な性格を多分に残しており、本来のPTAのあり方が十分に理解されていないということで、社会教育審議会が、PTAの基本的な問題である目的・性格を中心に検討を加え、「父母と先生の会のあり方について」と題した報告を行いました。
 この中で、PTAの目的については、次のように述べられています。
 「父母と先生の会(PTA)は、児童生徒の健全な成長をはかることを目的とし、親と教師とが協力して、学校および家庭における教育に関し、理解を深め、その教育の振興につとめ、さらに、児童生徒の校外における生活の指導、地域における教育環境の改善、充実をはかるため会員相互の学習その他必要な活動を行う団体である。」
 つまりPTAとは、子どもたちの健やかな成長のために、親と教師が協力し、連携を深め、お互いに学びあう団体だということになります。
PTAの性格
 昭和24(1949)年6月の社会教育法制定公布にともない、PTAは、同法に規定する社会教育関係団体としての取り扱いをうけることになりました。
 同法の規定によれば、社会教育関係団体とは「公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行うことを主たる目的とするもの」(第10条)であり、社会教育関係団体に対して、「国および地方公共団体は、不当に統制的支配を及ぼし、又はその事業に干渉を加えてはならない」(第12条)のです。つまりPTAは、あくまでも自主的、民主的に運営される団体なのです。
 さらに、前述の「父母と先生のあり方について」では、「父母の先生の会(PTA)は、学校に在籍する児童生徒の親および教師によって学校ごとに組織」され、「父母と先生の会(PTA)は、会員の総意によって民主的に運営され、特定の政党、宗派にかたよる活動や、もっぱら営利を目的とする行為を行わない」団体だと述べています。
 よくPTAと学校の関係とか、PTAの行うべき活動としてふさわしいかどうかといったことが問題となりますが、このPTAの性格を正しく理解して、適切な判断ができるようにしたいものです。

3.学校とPTA
学校とPTAの関係
 学校は、子どもたちの教育を推進するために校長を中心として教職員がそれぞれに校務を分担し、組織化された公の教育機関です。当然、法的な制約を受け、「学校教育法」などの法律に基づいて運営されることになります。
 一方、PTAは、子どもたちの幸せのために保護者と教職員が自主的に組織し運営する任意団体です。ですから、法的制約もなく、自ら作成する規約(会則)により、運営されることになります。
 学校の教育活動とPTAの活動は当然別個のものであり、区別されなければならないものですが、時によるとあいまいな場合があります。また、保護者も学校教育を受けている子どもの保護者としての立場と、PTAの保護者会員としての立場は違いますし、教職員も学校教育に携わり校務を執行する教職員としての立場と、PTAの教職員会員としての立場は違います。とかく、あいまいになりやすいのではないかと思われますが、区別すべきところは明確に区別しておかなければなりません。
学校への協力
 PTAは、学校に対し積極的に協力していかなければなりません。学校とPTAが相反した考え方や行動をしていたのでは、子どもの健全な成長と幸せを求めることはできないでしょう。
 学校に協力するためには、まず、学校の教育活動がよく理解されていることが重要です。学校の教育目標や指導方針などを十分に理解してこそ、必要な協力が可能となります。学校は、あらゆる機会をとらえて保護者に学校の考え方を示し、理解を得る努力をしなければなりませんし、PTAは、その活動の中で学校を理解するための学習を組み入れていくことが必要です。
 また、教職員と保護者がお互いにそれぞれの立場を理解し合えるよう、話し合える場をできるだけ多くもって、信頼関係をつくりあげていくことも大切です。非難する中からは、前向きの発想は生まれてこないでしょう。
 わが国のPTAは後援会的な性格をいまだに引きずっています。財政的・労務的な援助も時として必要かもしれませんが、学校への協力が財政的・労務的援助だけであったり、それが大半を占めているのではPTAの本来の目的に合ったものとはいえません。

4.PTAの活動内容
PTAの学習活動
PTAは子どもの健全な成長をはかることを目的とした団体でありその目的を達成するために会員相互が学習活動など必要な活動を行うことになります。この場合の学習活動とは、単に「学ぶ」「理解する」だけではなく、その上に立った実践活動を含む広い活動を意味しています。
 PTAの活動を、「父母と先生の会のあり方について」に沿って大きく分けると、次のようになります。
(1) 学校教育の理解・振興のための活動
 保護者が学校教育の目標や内容、学校の教育方針や指導内容などを十分に理解することは、極めて重要なことです。学校教育についての理解を深めることによって、その教育効果を高めるためにどのような活動を実施すればよいかを考えていくことができます。学校教育を理解するためには、保護者と教師の信頼関係・協力関係が成立していることが大切です。
 保護者は、学校の主催する授業参観や懇談会に積極的に参加するとともに、PTAの活動の中に学校教育の理解とその振興のための活動を計画・実践していくことが必要です。
(2) 家庭教育の理解・振興のための活動
 家庭は人間形成の基礎を培う基本的な場であり、子どもの価値観や生活文化を形成していく場でもありますが、最近、特に家庭の教育力の低下が指摘されています。家庭の本来の役割を理解し、家庭教育の振興を図るために、どのような活動をすればよいのかを考え、計画・実践していくことが必要です。
(3) 校外の生活指導のための活動
 学校の教育方針にもとづいて、校外の生活指導に協力するとともに、子どもの健全な成長を図るための校外の集団活動など、適切な活動を計画・実践していくことが必要です。
(4) 地域の教育環境の改善・充実のための活動
地域の教育環境の改善を図るため、好ましくない施設や出版物に対処した活動や、危険な地域の改善、交通安全施設や通学路の設置などの活動も、PTAの重要な活動となります。
 以上のほかにも、PTAのあり方や運営・組織に関する学習内容、会員の資質向上のために行う一般教養・趣味・技能などを習得する学習活動、レクリエーション活動、社会見学など多彩な活動があります。

5.家庭とPTA
家庭をとりまく状況の変化
 家庭は、親と子を中心とした生活を通して、人間形成の基礎を培う基本的な場であり、親等の意図的・無意図的な教育により、子どもの価値観や生活文化を形成していく場でもあります。それだけに、家庭のあり方や家庭教育が重要となるわけですが、昨今、家庭の教育力が低下したと言われています。
 その理由として、家庭をとりまく状況の変化が挙げられます。核家族化、少子化、共働きの増加、近隣との人間関係の希簿化などが進み、昔にはあった家庭や地域における教育機能が次第に薄れてきたと言われています。このような状況の変化をよく把握したうえで、家庭のもつ意義を再認識し、家庭の教育力の回復をめざしたいものです。
家庭の教育力を高めるために
 家庭における子どもの教育は、主として親の責任で行われるものであり、基本的には他人が介入できないものです。それだけに、親は子どもの教育を自分たちだけの問題としてとらえ、何か悩みがあっても自分たちだけで解決しようとする傾向があります。
 PTAは、それぞれの家庭の教育を尊重しながら、側面的に支援できる体制をつくることが必要です。家庭や家族、家庭教育や子育てなどをテーマとして、講演や研修、体験発表や意見交換などの場を設け、広く情報が得られるようにしたいものです。

『PTAの道しるべ』より抜粋