短編作品 『 グリコとノジマ 』 〜中編〜
目醒めると、そこは森の中だった。 グリコは空っぽの鳥篭を抱えて、大樹の節くれた根元に腰掛けている。
[ ここはどこかな。]
[ ・・・・・。]
[ どうして僕はこんなところにいるのかな。]
[ ・・・・・。]
[ 僕はアトリエに戻りたい。]
[ 少し歩こう、ワタル。]
[ きみが僕をここに連れてきたのかい?]
[ 歩こう、ワタル。さぁ。]
グリコはワタルの一歩先を歩いていく。
[ 迷子にならないかな?]
[ 大丈夫。ついてきて。]
[ グリコ、鳥篭が空っぽだ。ノジマはどこ?]
[ ノジマはこの森の住人。もう鳥篭は必要ないの。]
時々ワタルを振り返りながら、グリコは慣れた足取りで、森の奥へと進んでいく。
[ ここがどこだか、わかった?]
[ ううん。わからない。でも、とてもいい気持ちだ。懐かしいような気がする。]
[ そう。]
[ グリコ、ここはどこ?]
[ ここは、ワタルの森。]
[ 僕の森?]
[ そう。ワタルの心の中の一番深いところに、こんなに美しい森がある。]
[ 僕の心の中?ここが?僕は、僕の心の中にいる?]
[ そう。驚いた?]
[ ん・・・そうだね。少しね。でも、悪くないよ。]
森はどこまでも深い。
大樹が、巨石を抱えるようにして、ごつごつとした根を張っている。 その日陰では、苔生した岩が、緑色の滑らかな肌を見せている。 樹々は空に向かって、そのしなやかな枝を伸ばし、葉を広げ、 足下では柔らかく湿った土が、森の命を支えている。
空を仰ぐと、穏やかな陽光が、鬱蒼と茂る枝葉の間から零れ落ちてくる。 ワタルは、深く息を吸いこんだ。
ここが、僕の森。 ここが、僕の心の中。
[ グリコ。]
[ なあに、ワタル。]
[ なぜ僕は、僕の心の中にいるのかな。]
[ それは、ワタルが壊れてしまいそうだったから。]
[ ・・・・・。]
[ だから、ノジマがあなたをここに連れてきた。]
[ ノジマが?]
[ そう。ノジマは、そういう鳥。]
[ ねぇ、グリコ。]
[ なあに。]
[ 僕が僕の心の中にいるということは、実際の僕はどうなっているんだい?]
[ ・・・・・。]
[ ねぇ、グリコ。聞いている?]
[ うん。聞いている。]
[ 今、僕は・・・・]
[ それは、知らないほうがいいと思う。]
[ ・・・・・?]
[ ワタルは、白いクスリをどっさり飲んだよね。]
[ 白いクスリ。]
[ ワタル、あれは何のクスリだったの?]
[ ・・・・・。]
・・・・・そうだったね。思い出したよ。ごめんね、グリコ。
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