短編作品 『ノクターン』 〜第12楽章〜





こうして、僕とルイドは一日のほとんどの時間をともに過ごすようになっていった。僕は、眠る以外のすべての時間を、彼と過ごしたといってもいい。


僕達は薄暗い書庫を徘徊し、僕は彼の手引きで多くの本を読んだ。そして、彼から語られるすべてのことを、すぐさま自分の知識に置き換えていった。
そうして得た多くの知識は、僕がこれからこの世界で生きるための、そして、死者の森の番人として生きるための知恵であり、方法であった。


そして、日が沈み、あたりに闇の帳が降りる頃になると、僕達は荒れ果てた庭を歩いた。そして、朽ちかけた藤棚の下で、他愛もない話に興じては、罪のない笑い声を響かせた。


僕はただ、ただ、彼の近くにいたかった。


彼の傍にいて、彼の声を聞き、彼の気配を感じているだけで、僕は、僕という不完全な存在に穿たれた、施しようのない隙間が、塞がれていくのを感じていた。
愛でもなく、ましてや恋でもない。
それは、生れ落ちた瞬間に失ったものを、今ようやく取り戻そうとしているような、そんな感覚だったかもしれない。


運命の掌によって引き裂かれた者達が、運命の掌によって再び巡り合い、互いを失っていた空白の時間を埋め尽くそうとでもするかのような、そんな濃密な時間の中に、僕達はいた。


そしてそれは、孤独とともに生きることをさだめられた者が、その果てしなく長い人生の中で放つ、刹那の輝きであるということに、僕達は気づかぬふりをしていたのだ。



まだ、その時は。