短編作品 『ノクターン』 〜第8楽章〜





私の名はルイド。私は、番人。


「番人?」

「そう。番人。死者の森の、番人。」

「死者の、森・・・・」


ここは、あの世に一番近い場所だ。あの世とこの世の境目だと思えばいい。
屋敷の裏にあるのが死者の森。死んで肉体を失った魂は、あの森の奥にある門を通って、冥界に入っていく。
新月の晩、冥界へ下る門を開け、祈りを捧げ、魂を導くのが私の仕事。


「魂を、導く?」

「そう。」


人はみな、幸せな死に方をするとは限らない。
不慮の事故で逝った者、誰かの殺意の餌食になった者、自ら命を絶った者・・・・
この世に未練を残し、思い乱れ、苦しんでいる魂を鎮め、冥界へと導いてやる。


「わかるかな?」

「たぶん。いや・・・・どうかな。よくわからない。」


死者の森の番人は、老いることも、死ぬこともない。
ただし、後継者を見つけ出すまで、この任を解かれることもない。


「死なない?歳も、とらない?」

「そう。いつまでも、ここへやって来た時の年齢のまま。」


私がここへやって来たのは遠い昔。どのくらい昔だったか、もう忘れてしまった。私もまた、私の前任者によって、ここへ連れてこられた。
以来私は、ここで番人として暮らしながら、後継者を探し続けた。そう、何十年もの間、私の後継者となるべき人間を捜し続けてきたのだ。


「そして、ようやく君を見つけた。」

「僕?・・・・僕?」


はじめて君に逢った時、私はすぐに気づいた。君が、私の後継者であると。
後継者探しに方法はない。しかし、いつか、どこかで出逢うことができたら、そのときは必ずわかるのだ。必ず。


「君は、午後の街で、歩道橋を渡る私を見つけたね。憶えているかい?」

「・・・・えぇ。」


あちら側の人間に私の姿が見えるのは、夜だけだ。
しかし、たとえ白昼であっても、私の姿を見ることができる者がいる。それは、この世でただ一人、後継者となるべき者だけ。


「あなたの・・・・後継者。」


陽射しを浴びると、私達の体力は急激に消耗する。それは私達にとって非常に危険なことだ。にもかかわらず、私はあの日、白昼あちら側に入った。あちら側、つまり君が昨日まで暮らしていた世界。


そう。
どんな危険を犯してでも、私は確かめたかった。君が私の後継者であるということを。


「どうして僕なんですか?他の誰かじゃなく、どうして、僕なんですか?」

「どうして君なのか?それは私にもわからない。どうして私だったのかさえ、わからない のだから。」


それは、たぶん誰にも、たぶん永久にわからないだろう。しかし、それが私の、君の・・・・そして、番人として生きる者の、運命なのだ。


―― 望むと望まざるとに、かかわらず。