◎道具づくりの実際
この章では,実際に箱足箱を製作した様子を紹介していきます。平台パネルとの組み合わせや使い勝手を考えて,6個つくることにします。
◯この章で紹介する「つくり方」について
ある程度まとまった数量の道具を正確につくる際には,それなりの要領が必要になります。同じ寸法の部品がたくさんあれば誤差を最低限に押さえなければならないし,材料は木取りをよく考えて無駄なく使わなければなりません。そのために,しっかりと計画を立てること,また,加工に合った工具を使いこなし,作業の精度や効率を上げる必要も出てきます。この章で紹介する内容には,様々な方法や工具類が登場し,必ずしもこれまで述べてきた方法に沿っていない面がありますが,これまで紹介した方法,工具等の技術で十分代替えできる内容です。この章で紹介する箱足箱の製作は,あくまでも「私」が独りでつくるとしたら…,という内容ですが,技術的な可能性を提示した内容にもなっています。いずれ様々な技術を活用していく上でのヒントになれば幸いと考えます。
◯使用する材料(箱足箱6個分)
コンパネ(900mm×1800mm,厚さ12mm)4枚
垂木(30mm×40mm×4m)12本
コーススレッドビス(38mm,65mm)
◯作業の流れ
・型紙づくり〜けがき
・けがき(木取り)
・板材の切断(1)〜電動丸のこを使う〜
電動丸のこは,なぜ危険か。
丸のこ定規を使う
・円を切り抜く
・板材の切断(2)〜卓上バンドソーを使う〜
・仮の組み立てと準備
・垂木のけがきと切断 〜卓上丸のこを使う〜
・板材の部品と垂木の接合(1)〜準備〜
・板材の部品と垂木の接合(2)
・板材の部品と垂木の接合(3)
・組立から完成
・型紙づくり〜けがき
今回,「けがき」は基本的に型紙で行うことにし,その都度寸法を測る作業を極力省くことにしました。(理由は,寸法の端数が細かいこと。板材の場合,同じ部品を12枚ずつつくらなければならず,誤差を最低限に押さえたいことなど,です。)原稿は「Adobe Illustrator」でかき,原寸大にプリントしたものを用意しました。これを「スプレーのり」で薄ベニヤに貼り,カッターでていねいに切断したものを型紙としました。
接着部分②接着部分①原稿を接着したところ。つなぎ目はマドをつくっておくと正確につなぐことができます。A3サイズにプリントしたものです。大きな面の部品は4枚を貼り合わせることになります。
型紙の完成。これをカッターで切り抜きます。作業しやすいように全体を囲む長方形の補助線を引いておきます。型紙原稿をスプレーのりで薄ベニヤにはりつけたところ。
・板材の切断(1)〜電動丸のこを使う〜
コンパネから板の部品を切り出します。この章では「電動丸のこ」と「卓上バンドソー」を使います。「準備」の章でもお話ししたように,特に「電動丸のこ」の使用には危険を伴うので,いきなり使おうとせず,技術的な段階を設定して使用にふさわしい技術力を身につけてから使うことをお勧めします。たとえば,
1.ノコギリを正しく使えるようになる。→2.ジグソーの使用に慣れる。→3.卓上丸のこで角材の切断などに慣れる。→4.電動丸のこを使う。…といった具合です。
「電動丸のこ(以下「丸のこ」)」は,なぜ危険か。
板を切る際に,ジグソーと丸のこ,ともに切断用の電動工具ですが,ジグソーで大きな怪我をすることは滅多にありません。それに対し丸のこは大きな危険が伴います。二つの機械の一番大きな違いは,刃の動きです。ジグソーは,小学校の備品でもお馴染みの「糸のこ盤」と同様に刃が同じ軌道を上下して木を切ります。誤って刃に触れても刃が戻ってくるので,大きな怪我にはなりにくいのです。丸のこやバンドソーは刃が一方方向に回転するので,刃に手などが触れると巻き込まれてしまうため,怪我が大きくなります。また,丸のこは,刃が回転すると本体が手前に跳ね上がってくることがあります。いざという時にはしっかりと押さえ込んですぐにスイッチを切らなければなりません。
大工さんは,丸のこを様々な場面で使います。説明書にはないような,荒技と言ってもいいような過激な使い方も目にします。素人は決してまねをしないよう,ご忠告しておきます。
丸のこ定規を使う
長い直線を切る時は,「丸のこ定規」を使います。今回の作業では,数センチほど定規なしで切り,そこをきっかけに定規を合わせて固定します。本来は寸法で合わせていくものだと思いますが,どのように使うと精度が上がるか,自分に合ったやり方を工夫しても良いと思います。
板の部品は,まず「電動丸のこ」で長方形に切ります。異なった部品に同じ寸法が使われるので,切る順番を考えて要領よく作業します。
定規とは言っても使う人のさじ加減で精度は大きく変わります。作業はあくまでも慎重に。型紙を使う場合,切断はけがいた線上を正確に切ります。定規を合わせて切っていきます。定規を丸のこと一緒に動かすよう注意します。数センチほど定規なしで切り,定規を合わせるためのきっかけをつくります。
ビスで固定したところ。材料が小さくなってくると,こんな方法もありかもしれません。作業台にビスを打ってもかまわないのであれば,材料をビスで固定するという方法もあります。クランプによる固定。別角度より。材料の下に垂木などで下駄を履かせて,クランプで固定すると作業がしやすく安全です。
・垂木のけがきと切断 〜卓上丸のこを使う〜
垂木も型紙を使ってけがきをします。コンパネと同様,材料に無駄が出ないように木取りに気をつけます。
2mに切った垂木1本当たりの木取りの様子。 これを箱足箱ひとつ当たり4本使います。
切断は「卓上丸のこ」を使います。「卓上丸のこ」は,大量の角材を正確に切るために,いずれは入手しておかなければならない電動工具です。丸のこが固定されているので,比較的安全な工具です。ホームセンターなどで1万円弱から売っていますが,個人的には,いわゆる国産のメーカー品(日立,マキタ,リョービなど)をお勧めします。
使う際には,長い材料が水平に保たれるようにテーブルと同じ高さの台を作っておきます。(左右の分2つ。)
箱足箱一個分の材料テーブルの高さに合わせた台2テーブルの高さに合わせた台1
◯まとめ
型紙やゲージを使った方法は,作業中に寸法の数値を確認しなくてすむので,比較的迷いなく作業を進めることができます。また,何人かで作業する場合に,技能の差が仕上がりに影響しにくいので,作業の分担もしやすいと思います。
精度については必ずしも100%満足いくものではないかもしれませんが,つくり手の意識次第でかなり正確なものがつくれます。
今回は私の工房で作業しましたが,必ずしも同様の作業環境を整える必要はないと思います。工具等は,予算と使用する人の技能に合わせて,可能なものから揃えていけば良いでしょう。まずは簡単な工具類を使いこなし,創意工夫しながら技術と勘を磨いていくのも,ものづくりを経験していく上で,大切なプロセスではないかと思います。
作業の安全については,すべての作業に責任を持てる「大人」(いざとなったら,技術的にも経済的にも,ひとりで作業を終えられる方)が管理するべきでしょう。作業経験の浅い中高生のグループが,独断で作業することは絶対に避けなければなりません。
なお余談ですが,木材の切断は,ホームセンターの工作室などで有料でおこなっている店も多いようですので,そちらでお願いするという方法もあります。特に板の切断は「パネルソー」という大型の機械を置いている店であれば,かなりの精度で切ってくれる可能性があります。ただし,店員さんの技能にはかなりのばらつきがあるので,信用のおける方にお願いしないと,残念な結果になりかねません。ご参考まで…。