荒材・ベニヤ板とダンボールを使った

舞台・学園祭の「道具」と「つくりもの」


準備

◎素材・工具に関する予備知識

○使う木材の規格を知って効率よく作業する

ホームセンターや材木店に行くと,膨大な量の商品が並んでいます。ここから何を選べばよいのか混乱しがちですが,実際に使用する材料はそれほど多くないので,まず必要な材料の規格を知っておくと良いでしょう。プランによって多様な材料を購入するのではなく,決められた材料を工夫して使い,目的のかたちをつくりあげる方が効率がよいのです。
なお,長さの単位は尺貫法を使うことが多いので,1寸=30.3mm,1尺=30.3cm,1間=6尺,ぐらいは覚えておいた方がよいでしょう。

・荒材を使う
荒材とは丸太を規格の寸法に切り出しただけの角材,板材のこと。それに対し鉋(かんな)をかけて表面を仕上げた材料を仕上げ材といいます。使用する主な荒材は下記の通りです。
垂木(「タルキ」。アカマツなど)…30mm×40mm×4m
小割(「コワリ」。スギ)…24mm×30mm×3,650mm
他に
貫板(「ヌキイタ」。スギ)…14mm×100mm×3,650mm(2間)
半貫(「ハンヌキ」。スギ)…14mm×45mm×3,650mm(2間)
などを使うこともあります。
垂木には様々な規格があり,ホームセンターでは仕上げ材を扱っている場合も多いようです。小割はホームセンターでは扱っていない場合もあります。
材木の規格や名称はは地域によって違いがあります。関東と関西では全く違うという話も聞きます。できれば地域の事情は知っておいた方がよいでしょう。
個人的には荒材は地元の材木店で購入することをおすすめします。配達をしてくれるし,急ぎの用件に対応してくれることもあります。ただし,何より礼を正して接することが第一です。家一軒を建てる材木に比べて,自分たちが使う材料がどれだけ微量かは自覚しておく必要があります。

・使うベニヤ板はおよそ2種類 
ベニヤ板は表面に使用する木材の種類によって,ラワンベニヤ,シナベニヤなどがあります。大きさは3尺×6尺(910mm×1820mm,「サブロク」といいます。以下3×6と表記)4尺×8尺という規格もありますが説明は省略します。厚さは2.3mmから24mmぐらいまで。特にコンクリートの型枠パネル用に使用する厚さ12mmのラワンベニヤを「コンパネ」といいます(サイズは900mm×1800mmとなるので注意)。普通のラワンベニヤに比べ価格が安い材料です。使用する主なベニヤ板は下記の通り。
薄ベニヤ …厚さ2.3mm(910mm×1,820mm)
コンパネ …厚さ12mm(900mm×1,800)
呼び方は舞台での通称。コンパネのことを薄ベニヤに対して厚ベニヤという場合もあります。

木材と釘・木材と釘の関係・釘は4種類
釘は長さにより用途がだいたい決まっています。使用する釘と用途は下記の通り。
24mm …薄ベニヤを打つときに使用。
38mm …コンパネを打つときに使用。
50mm …小割を打つときに使用。(舞台ではあまり使わない。)
65mm …小割・垂木を打つときに使用。
釘の太さは様々。可能なら状況によって使い分けます。

・木材に接着剤は使わない?!
木材の加工・組み立ての際には,基本的に接着剤は使用しません。これは使い終わったら解体するのを前提としてつくるからです。

○塗料・絵具について

木材と同様,量販店には膨大な種類の塗料があります。画材店に行けば絵具も然りで,目的,用途によって適切に塗料・絵具を選ぶ必要があります。塗料には顔料系と染料系とがありますが,ここでは顔料系塗料についてのみ簡単に説明します。顔料系の塗料・絵具は色の成分である顔料と,顔料を溶かし込む溶剤,固着させる樹脂とでできています。溶剤,樹脂の種類によって,塗料では水性ペンキ,油性ペンキ,絵具では水彩絵具,油絵具,アクリル絵具,岩絵具,泥絵具など多数。成分についてはそれぞれの製品を参照してください。

・おすすめする塗料・絵具
舞台で使われている絵具として「合成樹脂塗料」があります。(本来の意味とは違うが,「泥絵具」という俗称で呼ぶこともある。)市販されている商品で言うと,「ネオカラー」「スーパーボタンカラー」などです。水溶性で,酢酸ビニル系の塗料です。水彩絵具のように水で薄めて使用します。塗料ではないが同じ酢酸ビニル系に「木工用ボンド」があります。成分が近いので,下塗りの時など混ぜて使うこともあります。
舞台で使われてきた理由は,ペンキのようなテカリがないので,舞台照明との相性が非常によいことです。また,水彩絵具のように使え,臭いもほとんどないので扱いやすいのも特徴です。乾くとある程度の耐水性があるので,塗り直しなどの重ね塗りに耐えることができる。など,他に代え難い性質を持った絵具です。
「ネオカラー」はホームセンターの塗料売り場や画材店で入手できると思いますが,若干の割高感があります。ある程度まとまった量が必要なときは専門店で「スーパーボタンカラー」を購入することをお勧めします。取扱店は大劇場の舞台製作などに使う塗料を一手に引き受けている「株式会社 浅井」です。遠方で電話でしかやり取りができないのであれば,はじめは色見本などを送ってもらうなどして,どんな発色か,どんな色があるか知っておいた方がよいです。その上でどの絵具がどれくらい必要なのかを具体的にまとめて(たとえばベニヤ板だと何枚分塗る,とか。)ご相談します。何より礼を正して接することが第一であることは言うまでもありません。

・ペンキを使う場合の注意
ペンキは水性ペンキを使う場合が多いでしょう。水性ペンキは普通水で薄めず原液のまま使います。刷毛や容器は水で洗いますが,極力下水に流さないように工夫するべきです。
また,水性塗料と油性塗料を混ぜることはないと思いますが,乾いた塗装面への重ね塗りであっても,水性の上に油性,油性の上に水性といったことをすると,塗膜が壊され細かい皺が寄ったようになり,固着しにくくなります。塗装としては失敗であり,すべてを剥がして塗り直しをしなければならなくなります。同じ色の水性ペンキだからといって違うメーカの製品を混ぜることも避けた方がよいと思います。

・その他の塗料・絵具
その他にも塗料・絵具は目的,用途によって様々な製品が用意されています。一般的な塗料として耳にするニスやオイルステイン,絵具であればアクリル絵具,ガッシュ,ポスターカラーなどは説明しておくべきでしょうが,また別の機会にしておきたいと思います。

○ダンボールを使うための工夫例

ダンボールを使う理由は,比較的丈夫で加工が容易であるということ,地元の量販店等で処分されるダンボール箱をいただくことができることでしょう。もともと廃棄される運命にあったダンボールだが,性質を理解して上手く使えば立派な素材として活用することができます。

・素材として蘇らせる。
ダンボールの規格は,厚さについて言えばおよそ3つで,3mm,5mm,8mmです。用途としては,箱のまま使う場合,一枚のダンボール紙を工作物の材料として使う場合,比較的大きな板として壁のように使う場合,と様々です。
比較的大きな板として用いる場合,2〜3枚を貼り合わせて再利用すると便利なので,ここでは2枚のダンボールを貼り合わせる手順を紹介しておきます。

①ダンボール箱はガムテープとホッチキスの芯を取り,接着部分を剥がし,展開した状態に広げる。厚さごとに仕分けします。
②コンパネ2枚,古新聞,木工用ボンド,重石を用意します。コンパネ1枚を床に敷き,古新聞を敷き,同じ厚さのダンボールを必要な大きさに敷き詰めます。その際ダンボールの方向を揃えること。(まず床の上にコンパネを敷く理由は,接着剤が乾くまで時間がかかるため,そのまま移動する可能性があるから。)ダンボールの切れ目やつなぎ目は裏面をマスキングテープでつなげておくときれいに仕上がります。
③敷き詰めたダンボールと,上にのせるダンボールそれぞれの接着面に木工ボンドを全面に塗り,貼り付けます。また,2枚のダンボールの切れ目や折り目の位置が重ならないように注意します。
④古新聞を敷き,コンパネをのせて,重石でプレスします。最初の20〜30分,ボンドの塗布面が落ち着いてくるまでは,かなりしっかりプレスする必要があります。人が何人か乗っても良いでしょう。プレスはクランプを複数個使用して行えれば確実です。硬化までの乾燥時間は丸一日から二日程度。横からはみ出たボンドが透明になったら大丈夫でしょう。


貼り合わせる枚数は2枚だとちょっと頼りないところ。3枚だと比較的しっかりした板になります。
2〜3枚と言わず10cm程まで貼り合わせると,かなり頑丈で木材のような素材になります。この材料を使うメリットは以下の通り。
●ガムテープなどで容易に接合できる。
●ジグソーや糸のこ盤などで自由な形に切断しても,型くずれしにくい。
●面の組み合わせにより自立が可能になる。(支持体が不要になり省スペース化。)
●木材と組み合わせて,より大きな構造物がつくれる。(ベニヤ板のような使い方をする。)
ただし,この方法には問題点もあります。下記の通りです。
▲重ねて使うため,大量のダンボールが必要になる。
▲同様に木工用ボンドが大量に必要になる。(コスト面への影響大)
▲接着剤の硬化・乾燥に時間がかかる。(計画的な作業が必要)
▲厚さによってはかなり重くなる。(貼り合わせたはいいが持ち上がらない…)
▲作業スペースを広くとる必要がある。(貼る場所のほかに,並べて準備する場所も必要。)

実際の活用法については「つくりものづくり」の章で紹介します。

○工具・電動工具

工具に対する意識の高さは,つくりあげるものの出来栄えと大きく関係してきます。工具はいわば手足のようなものですから,必要なものはきちんと揃えて作業に臨みます。工具類の収納例。工具の場所それぞれに輪郭を描いておくと整理しやすいです。
また,作業の安全性を保つためにも,正しく工具を使うことを肝に銘じなければならないでしょう。あらゆる具体的な作業は,基本的にそれにあたる個人が責任を持たなくてはなりません。中学校・高等学校の学園祭であれば,道具の管理と使用は生徒1人1人の自立を促す良いチャンスでもあります。

・基本的な工具の管理
集団で共有する工具は決められた場所に置き,使ったらそこへ戻す,各自の工具は自身が管理します。集団で作業する場合,この当たり前のはずの基本的な管理がおろそかになる場合があります。自分が持ってきた工具を誰かが使い,いつの間にか無くなるというのは実に不愉快な状況です。また作業が雑になって事故につながるといった面もあります。
工具はつくる時だけでなく,解体する時も必要です。作業のはじめから終わりまで,すべての工具の管理を徹底したいところです。

・木材加工を中心とした作業の際,必要な工具は下記の通りです。

集団で共有する工具・電動工具および消耗品など・集団で共有する工具・電動工具および消耗品
定規(1m。裏面にすべり止めが付いているものが便利。2mもあればさらに良い。),釘各種(一括購入が割安),バール(中,30〜40cmぐらいのもの),コンパネ(薄ベニヤ切断時の下敷き),ガンタッカー,ジグソーなど







・各自で管理する工具スケールはcm,mmと尺,寸の目盛が付いているものがおすすめです。個人で管理する工具など
カナヅチ(舞台では専用の形状のものを「なぐり」という。),ノコギリ(折りたためるものが便利だが,精度は一般的な替刃のノコギリの方が良い。主に「横引き」を使う。),バール(小。カジヤ釘抜。打ち込んだ釘を抜くとき使う。無いと仕事になりません。),カッター(大。きちんとロックできるものが良い。),差金(他にスコヤがあるとさらに便利),スケール(3.6m程度の巻尺),ペンチ,軍手,タオルなど
これらを釘袋(=腰袋。舞台では「ガチ袋」ともいう。)に入れて管理する。




・ダンボールの加工を中心とした作業の場合は下記の通り。ダンボールの加工に必要な工具・消耗品など
・集団で共有する工具・電動工具および消耗品
木工用ボンド(大 3kgなどを一括購入),コーキングヘラ(画材で言うとパレットナイフ),古新聞,コンパネ,ガムテープ(紙,布),マスキングテープ,定規(1m。2mもあればさらに良い。),ウエス(=ぼろ布),ガンタッカー,ジグソーなど
・各自で管理する工具および消耗品
カッター(大),差金,スケール(3.6m程度の巻尺),軍手,タオル,など

・電動工具について
電動工具は手動の工具が使いこなせるようになってから,指導者の下で使うべきです。正しく使えば作業効率を著しく上げますが,ろくに使い方も知らず手を出すとあっという間に事故を起こすことになります。怪我をすること,させてしまうこと,共に決して起こしてはならないことです。
ここでは個々の電動工具の使い方については触れませんが,使い方以前に,髪の毛や袖口などが巻き込まれないように服装等に注意すること,軍手はしないこと,など注意点があるので,必ず指導者の下で作業するべきです。
下記に作業レベルによって使用が可能であろう電動工具を紹介しました。ただし,あくまでも目安です。

初心者 小学校高学年〜中学1年程度
卓上糸のこ盤,
中級者 中学2年〜高校生程度
ジグソー,卓上バンドソー,卓上ボール盤,ベルトサンダー,ドリルドライバー(充電式)
このうちジグソーについては後ほど具体的な作業例を紹介します。

これ以外にも電動工具はたくさんありますし,使いこなせれば便利なものばかりです。しかし,不用意に勧めるのは避けたいと思います。特にお勧めしないのは「電動丸のこ」で,特に上記初心者及び中級者には決して迂闊に手を出してほしくないと思っています。