◎道具をつくる
この章では基本的な工具の使い方と道具のつくりかたを紹介していきます。
○道具づくりの心構え
・軽く,丈夫で,壊しやすく
軽くつくることについては,つくる際の取り回しのしやすさ,会場内での持ち運びが楽であること,保管する上でも動かしやすいほうが良いこと,など容易に想像がつくでしょう。
丈夫であるという意味は,目的に添った丈夫さということです。箱をつくる際に,ただの飾りの箱状オブジェならば,形が崩れない程度の構造であれば十分ですが,人が上に乗るのであれば頑丈につくらなければなりません。また,人が乗る箱状の台をつくるとすると,重量に耐える脚,天板(舞台では「ふみづら」という),すじかいなどは構造的にしっかりつくらなければならないが,側面(舞台では「けこみ」という)は構造的な部位を隠し,軽く構造的にも簡単で,視覚的な処理がしてあればよい,といった具合です。
壊しやすくつくるためには,あらかじめどこまで壊す予定でつくるかを決めておく必要があります。使い終わったら廃棄するのか,再利用するのか,再利用の場合,材料として再利用するのか,道具として再利用するのか,などです。
このように,道具をつくる時に,使うこと,片付けること,保管することなど,長期的な活用と管理について全体像を見渡しておくと,材料も手間も無駄を最小限にとどめることができます。一見直接関係ないように思えるかも知れない「つくる以外のこと」が,実は道具づくり・つくりものづくりの背景に常に存在していることを覚えておいてもらいたいのです。
○基本的な工具の使い方
・ノコギリで角材を切る
角材を指定の寸法でまっすぐ正確に切る,これが木材加工の第一歩といっていいでしょう。
本来ならノコギリの説明も必要なところですがここでは省略します。主に「横挽き」のノコギリを使うことが多いことを覚えておきましょう。
①「けがき」〜その一手間を面倒くさがらないで〜差金を使ってけがく②差金を使ってけがく①
材料に切る場所の線を引くことを「けがき」といいます。角材の場合,3面をけがきます。1面けがいただけで切ると,切断面が斜めになりやすいのです。初心者が側面のけがきを面倒くさがる場合があります。切断面が斜めになるということは寸法通りでなくなるということですから後々まで影響が残ります。引いてみればわずか数秒の手間を惜しまない方がよいのです。上手な人ほど基本に忠実なものです。
②「切る」〜やっぱり,その一手間を面倒くさがらないで〜2面の線をにらんで切る②2面の線をにらんで切る①
ノコギリは,まず垂直にまっすぐ切れるようになることが基本です。そのためには材料は水平に置かれる必要があります。材料の下に物が挟まり傾いた状態のまま切り始めないこと。ここでもわずか数秒の一手間を惜しまないこと。けがいた2本の線を常ににらみながら,線とノコギリの向きがぴったり合うように切ります。切断面の向きは切り始めの数ミリでほぼ決まってしまうので,特に斜めにならないように気をつけます。切断面が斜めになる,とは,刃が左右に振れて線からずれてしまうことと,刃が左右に倒れてしまうことを指します。カーブして切れてしまうというのは論外。
いずれは様々な状況でノコギリを使わなければならない時が訪れます。そのためにもしっかりと基本的な技術を身につけておくべきです。
・カッターで薄ベニヤを切る定規の背を使って半分の厚み程度切るけがき
厚さ2.3mm〜3mmなどの薄ベニヤをまっすぐ切るときは,カッターを使うと良いです。もちろんノコギリで切ることはできますが,カッターの場合,細かい「おが屑」が出ない。切りしろ分の幅をあまり気にしなくて良い。板の「たわみ」を気にしなくて良いので仕事がしやすい。慣れるとノコギリより速く切れる。などの理由があります。必ず下敷き用のコンパネを準備するなど養生をきちんとします。
注意! 刃が向かう先に手を置かないで!薄皮を残すような切り方にならないように。定規をはずしてしっかり切っていく
①2つの工程で行うイメージで。まず,けがいた線に定規の背を合わせ2〜3回に分けて1/3〜1/2ぐらいの深さまで正確に溝を切っていきます。必要以上に力を込めないのがポイントですが,木の繊維につられないようにしっかり刃を立てます。カッターを使う時は定規の背を使います。
②定規をはずしてカッターをしっかり持ち,溝に添って力を入れてベニヤ板を切っていきます。薄皮を残すような切り方をしないように,しっかり切ります。
〈注意〉カッターは刃をネジで固定できる大型の物を使います。刃が向かう先に手を置かないように注意。刃が切れなくなったら刃先を折って切れる状態を保ち安全に作業します。
○ジグソーを使ってみる
・ジグソーについて
ジグソーは短いノコギリの刃(ブレード)がミシンのように上下して物を切る手持ちの電動工具。繊細な加工にはあまり向きませんが,手軽で比較的安全に作業ができるので,道具づくり・つくりものづくりには欠かせない電動工具といえます。直線はもちろん曲線も切れます。コンパネ,貼り合わせたダンボールなど厚手の板材を切るときに使います。また切り抜き作業には必ず必要になる電動工具でもあります。
・準備慣れないうちは左手で機械がばたつかないようにしっかり押さえます。クランプで押さえてもよい。ダンボール箱を下敷き台にした例
ジグソーは下方にブレードが出ているので,3×6程度の比較的大きい板材を切るときは,高さの揃ったダンボール箱を並べて,その上で作業するとスムーズです。ダンボール箱は板と一緒に切ってしまってもかまわないし,かわしていってもかまいません。ボロボロになったらひっくり返して,使えなくなったら交換,という感じです。ここで使うダンボール箱は高さの揃ったものを購入することをお勧めします。比較的小さい板材を切るときは,材料を作業台にクランプで固定して切ると作業が安定します。
・ジグソーでコンパネを切る①とにかく切ってみる,直線・曲線ジグソーで直線を切る①
ジグソーの使い方で注意することは,ベースを材料にぴったりと押し付けて切ることと,刃が動いているときに,材料への刃の抜き差しをしないこと。あとはけがいた線に沿って切ればよい。曲線を切るときは刃を曲線用(刃の幅が狭いもの。商品名は様々。)に替えます。そのままでは曲がりきれない急な曲線を切る場合は,溝の幅を広げていき刃が曲がって進みやすいようにします。<図>ちょっと切っては戻り,ちょっとずらして切っては戻り,ということを繰り返します。切断面が粗くなりますが,これがジグソーの限界というところ。どうしてもきれいに切りたい場合は,糸のこ盤やトリマー(ルーター)を使うという手もあります。
・ジグソーでコンパネを切る②定規を使って直線を切るジグソーで直線を切る② 定規を使う
直線を切るとき,付属の定規(機種によっては付属されていなかったり,取り付けられない場合もあります。)を使えることがある。ただしこの付属の定規は,材料に直線の面がある場合に,それに平行な直線を切るための補助部品なので万能ではありません。その他の方法として,厚手の定規をクランプで留めてベースを添わして切る方法もあります。けがきに手間がかかること,定規のたわみに気をつけることなど注意することはありますが,きれいに切ることはできます。
・ジグソーでコンパネを切る③四角い穴を切り抜くジグソーで四角い穴を切り抜く
四角形の切り抜きは,けがいた図形の対角の内側2カ所に穴を開け,そこから緩やかなカーブで隣の角に向かって切る。刃を抜いて逆向きに反対側の角に向かって切る。その繰り返しです。このように,切り抜く形をきれいに残そうと考えずに,切れるところから切り落としてブレードの可動範囲を広げていくのがコツです。ただしあまり切り落としすぎるとベースを当てる面がなくなってしまうので,切り落とすタイミングは考えた方がよいです。複雑な形でも考え方は同じです。
○基本的な道具づくり
「道具」「つくりもの」づくりの基礎として,舞台等で使われる基本的な大道具を紹介しながら,小規模な空間に合った,実用的な「道具」づくりについて説明していきます。
・パネルのつくり方 panel01.pdf
舞台で,角材の枠や骨組みにベニヤや布などを貼って絵を描いた大道具のことを「張り物」といいます。「人形立て(または人形)」で立てたり,「バトン」で吊って使います。張り物には,遠くに見える風景などを描いた「遠見」,建物や家財道具など輪郭をきちっと描いた「書き割り」などがありますが,それらの巨大な大道具は大劇場の商業演劇において用いられるものの,アマチュア演劇,学園祭といった場ではあまりお目にかかりません。
ここでは張り物の最小のユニットである3×6サイズのベニヤ板を使ったパネルの作り方を説明します。パネルは場を視覚的に演出する役割と,空間を仕切る役割を持った最も基本的な道具です。また,ひとつの面材として応用し箱などをつくることもできます。最初に材料と工具の扱い方を経験する上で一番良いモチーフといっても良いと思います。
パネルづくり(3×6)
①材料を準備。薄ベニヤ板(2.3mmまたは3mm)1枚+α,小割(24mm×30mm×3,650mm(2間))2本,釘(24mm,50mm)
②ベニヤの短辺の長さに小割を切り,辺に合わせて釘(24mm)で留める。小割の向きに気をつける。また,ベニヤがたわまないように気をつける。
③ベニヤの長辺(短辺小割り内側分)に合わせて小割を切り,辺に合わせて釘で留める。
④角の小割を釘(50mm)で留める。釘は必ず2本ずつ打つ。理由は材料が回ってしまわないため。
⑤桟(さん)をつくる。長辺との接面を釘(50mm)で留め,薄ベニヤを釘(24mm)で留める。基本的にはここで完成。以下は補強。
⑥枠・桟の接合面の補強に「裏止め」をつける。裏止めは一辺7寸(約21cm)の正方形を対角線で切った薄ベニヤの三角板。(桟が十字に交差する場合は正方形のまま使う。)裏止めを付けるかどうかの判断だが,パネルを釘やクランプなどでつなげて使ったり,何回も使い回しをするようであれば付けておいた方がよい。パネルが壊れる理由は様々だが,折れたり割れたりした木材は修正しにくいので,必ず付けておいても良いぐらいです。
・注意! パネルの大きさや構造はいろいろ
上記に紹介したパネルは最も簡単なもので,決してスタンダードということではありません。舞台などで使用するパネルの骨組みは65mmの釘でしっかり留め,薄ベニヤの反りを嫌って3×6でも桟を2本入れる場合が多いようです。6×6,6×9など大きなパネルであれば,小割でなく垂木を使う場合もある。など,状況に応じて様々な方法があります。
加えて当たり前のことですが,プランによっては必ずしも長方形とは限らないので,そちらも誤解のないように…。
⑦このあと必要に応じて,紙を貼る,下塗りをするなどの工程を経て絵を描くことになります。詳しくは「絵を描く」の項で説明します。
・人形立てのつくり方 ningyo01.pdfしず(鎮=吊りもの,バトンとのバランスをとるための鉄製の重り。)をのせて固定したところ。写真はあるホールで使われている人形立てです。6尺物で市販品のようです。人形立てをつくる
人形立て(または人形)はパネルなどの張り物を垂直に立てるための補助器具。1回使って廃棄するような物ではなく,使えなくなるまで使います。既製品もありますが,手作りで十分です。大きさに規格があるのかどうかは不明。舞台のプロが使っている人形立ての大きさは様々で,ボロボロになるまで使っているのを見かけます。
ここでは上記3×6程度のパネルを立てる人形立てのつくりかたを説明します。
①材料を準備。垂木(30mm×40mm×4m)1本,下敷き用のコンパネ(できれば2枚),釘(65mm),薄ベニヤ板少々。
②下敷き用のコンパネに実物大の人形立ての図を正確にけがく。このコンパネを型紙的に使う。理由は,人形立ては一度に複数個作る場合が多いので,分業体制を取りやすくするため。
③それぞれの部品を正確に切ったら,柱部分をコンパネの図にきちんと合わせて釘で留める。しっかり留めたいので,できればコンパネを2枚重ねて敷いておくと養生になる。この釘はすぐ抜くので,最後まで打ち込まないこと。
④同様にベース部分をコンパネに打ち付け,柱部分と接合する。部品と部品を接合する釘はしっかりと打ち込む。
⑤同様にすじかい部分をコンパネに打ち付け,柱・ベース部分と接合する。若干傾斜に誤差が出るかも知れないが,3つの部品がぴたっと合うところで決めると良い。
⑥適当な大きさの三角板を各コーナーに付ける。
⑦人形立てをコンパネからはずし,裏返しにして三角板を各コーナーに付けて,できあがり。
※注意 人形立てを作るときは材料を正確に切ることが大事です。荒材は太さに多少のばらつきがあるので,現物の寸法を良く確認しておきます。組み立てる際はとにかく直角に誤差がないように気をつけます。人形立ての使い方については,後の項であらためて説明します。
・柱状の箱をつくる hashira01.pdf柱状の箱をつくる
軽くてしっかりした箱を要領よくつくるのは意外と難しいことです。ここでは30cm角で高さ約6尺(=1間=181.8cm)の柱状の箱のつくり方を紹介します。この箱はただの飾り用で,横倒しにして人が乗ったり,重い物を載せたりしない,というのが前提です。
①材料を準備 薄ベニヤ板2枚,小割り6本,釘(24mm,50mm,65mm)
②作業の概要 縦長のパネルをひとつの面材として使う。縦長パネル4枚を側面として接合し,天板に薄ベニヤを貼って固定。というのが基本的な考え方。しかし現実には,小割りが見えてしまう部分が出るので,それを計算して各材料の寸法取りをしておく必要があります。
③図のようなパネルと木枠をつくります。ただし荒材(この場合は小割り)は寸法にばらつきがあるので,数値は目安と考えてください。必ず実際の材料の寸法を確認して寸法を決めてください。人形立ての時のような原寸大の下絵を作っておくと作業の能率がよい場合もあります。角は後々釘が集中するので,必ずしも2本ずつ打たなくて良い。
④パネルと木枠を組み立てる。木枠面の幅の寸法を確認し,薄ベニヤを切ります。
⑤歪みが気になる場合は,筋交いを取り付けるとよいです。筋交いは貫板や半貫などを使っても良いでしょう。釘が打ちにくい場所なので,あらかじめ筋交いの途中まで釘を打ち込んでおき本体を傷めないように気をつけます。
⑥木枠側の薄ベニヤを付け,上面寸法を確認し,薄ベニヤを切って取り付けます。
⑦箱の角は面取りをした方がよいでしょう。鉋(かんな)でもよいが,サーフォームなどを使っておこなうと手軽で楽です。紙ヤスリで仕上げればさらに丁寧。サーフォーム
※注意 裏面を見せなくても良い場合は,薄ベニヤを張らないでおきます。これは固定が必要な場合に底面を釘で留めたり,重りを置いたりすることができるようにしておくためです。